指名手配犯・桐島聡の、弱い立場の人に寄り添う人柄・考えをドラマチックに描く衝撃作『「桐島です」』より、主演の毎熊克哉のオフィシャルインタビューが届いた。
2024年1月26日、衝撃的なニュースが日本を駆け巡った。1970年代の連続企業爆破事件で指名手配中の「東アジア反日武装戦線」メンバー、桐島聡容疑者(70)とみられる人物が、末期の胃がんのため、神奈川県内の病院に入院していることが判明した。男は数十年前から「ウチダヒロシ」と名乗り、神奈川県藤沢市内の土木関係の会社で住み込みで働いていた。入院時にもこの名前を使用していたが、健康保険証などの身分証は提示しておらず、男は「最期は本名で迎えたい」と語った。報道の3日後の29日に亡くなり、約半世紀にわたる逃亡生活に幕を下ろした。

桐島聡は、1975年4月19日に東京・銀座の「韓国産業経済研究所」ビルに爆弾を仕掛け、爆発させた事件に関与したとして、爆発物取締罰則違反の疑いで全国に指名手配されていた。最終的に被疑者死亡のため、不起訴処分となっている。このナゾに満ちた桐島聡の軌跡を『夜明けまでバス停で』(22)で第96回キネマ旬報ベスト・テン日本映画監督賞、脚本賞を始め数々の映画賞を受賞した脚本家・梶原阿貴と高橋伴明監督のコンビがシナリオ化。医師の長尾和宏が、『痛くない死に方』『夜明けまでバス停で』に続き、高橋作品の製作総指揮を務める。
■『「桐島です」』予告編
オファーを受けたとき、どんな思いでしたか?
正直、すごく驚きました。高橋伴明監督の作品に出ることがあっても、最初は小さな役だったり、ある程度任せてもらってからだろうと思っていました。ここまで大きな、桐島という“誰が演じるかで印象が決まってしまう”ような人物を託されるとは思っていませんでした。
だから、「この役を僕に?」と正直びっくりしましたし、「信頼されているんだな」とも思いました。でも同時に怖さもあって。桐島役を、というのは、顔が似ているとかそういう理由ではなく、何かしら僕の過去の作品や空気感を観て感じてくれたものがあったのかな、と。
桐島という人物、そして犯罪者という立場を演じることに抵抗はありませんでしたか?
抵抗はなかったです。これまでも“悪い役”はいろいろやってきましたし、そもそも桐島という人物が実在であることはもちろんだけど、仮に100年、200年経ったら、もう歴史上の人物になるわけで。時代劇で罪人を演じるのと同じような感覚でした。
彼の人生や思想に触れて、「これは悪だ」「これは正義だ」と一方的に判断するのは、ちょっと違うと思っています。情報が少ない分、そこを想像する余地があるのも、役者としては魅力でした。
これまでも実在の人物を演じたいとおっしゃっていましたが、その延長線にこの役があった?
「実在の人物をやってみたい」と話したのは、役へのアプローチの仕方が違うから。資料がたくさんある有名人ではなくて、桐島のように“情報が少ないけれど実在した人”というのは、演じる上で非常に自由でもあり、責任もありました。ただ、名前は有名でも、実際にどんな人だったのかは誰も知らない。そういう意味では、現代の“半分伝説的な人物”みたいな、すごく不思議な存在でした。

桐島聡という人物にはどんなイメージがありましたか?
指定手配のポスターは、よく見ていました。街中に長年貼られていて、でも“重要指名手配”という文字がついていても、見た目は大学生みたいに普通の青年。それがずっと印象に残っていました。
事件自体、僕の世代では詳しく知らない人も多いですし、僕自身も正直「何をした人なんだろう?」っていう認識でした。ただ、その“普通っぽさ”が逆に気になっていたし、そこにリアリティも感じました。
桐島と自身の境遇に重なる部分はありましたか?
僕と同じ広島県福山市出身と知って驚きましたし、桐島が高校時代を過ごした尾道も僕にとって思い出が多い場所です。地方の海の町で育った青年が、東京に出てきて、学生運動が盛んな時代に飲み込まれていく。その流れは、理解できる部分があります。
20代の若者が、正義感や不満を抱えながら、たまたま出会った人たちに影響されて流れていく。その“たまたま”の連続で、人生が思わぬ方向へ進んでいくというのは、誰にでも起こり得ると思うんです。
たとえば音楽の仲間に出会っていたら、音楽で社会に訴えようとしたかもしれない。映画サークルだったら、映画で表現しようとしたかもしれない。そういう可能性を感じさせる人物なんです。だからこそ、どこか自分の中にも似た部分があるように思えて、役に入りやすかったんだと思います。

劇中では20歳から亡くなる70歳までを演じましたね。
いわゆる特殊メイクではなく、ヘアメイクで自然に年齢を重ねるという形でした。それが逆にリアルで、役に入りやすかったです。自分が“70代の男”に見えるかどうかというのは心配もありましたけど、仕上がりを見て「ちゃんと見えるな」と感じました。今回は本当にヘアメイクの力に助けられました。
最後に桐島が本名を名乗ったことについては、どう感じていますか?
いろんな意見がありました。「公安警察に勝った」「最後に自分の名前で死にたかった」……。でも僕は、はっきり理由がわからないままでいいんじゃないかと思っています。監督とも「明確な理由を提示しない方がいい」と話し合っていて、だからあのシーンは特に大切にしました。
“朦朧とした中で、ふと聞かれて自然に出た言葉”――それが「桐島です」だったのかもしれないし、あるいは仲間への申し訳なさ、償いの意味だったかもしれない。観る人がどう受け取るかが大事だと思います。

7月4日(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開